「紅麗様!」
焦ったような三羽烏の声が響く。
様ってことは、こいつらは紅麗の部下だろうか。
紅麗は俺を一瞥すると三羽烏に目を遣る。
縮こまった三羽烏は殺気までの勢いもない。
「この男を狩るな。そうこの森の魔物全てに伝えろ」
「はっ」
紅麗が命を下すと三羽烏は頭を下げた。
けれど、一人が怖ず怖ずと顔を上げる。
「その、失礼ですがその男は…」
俺のこと、だろう。
三羽烏が尋ねると紅麗は冷たい目を向け、再びそいつが下を向く。
少しの沈黙の後、紅麗が口を開いた。
「私の弟だ。分かったら行け」
「しょ、承知しました!申し訳ありませんでしたぁ!!」
恐らく、俺が紅麗の弟だということに驚きながらも三羽烏はあっという間に遠くへ飛んでいった。
けれど俺は彼らなんかどうでもよくて。
俺の方を見ていないにも拘わらず隙がなかった紅麗がこちらをゆっくり向くのを固まって見ていた。
何か言おうとして、けれどそれよりも逃げたくて。
逃げるってどこにってまた思う。
「半端なヴァンパイアは狩られる対象だ」
半端、というのはなんだろう。
純血だとか純粋だとか、もうわけがわからない。
俺はただ帰りたいだけなのに。
そう思った瞬間、体中の力が抜けた。
ふらりと景色がずれていく。
落ちる、と思った時には既に、何かに支えられていると感じて。
それが紅麗だと気付く前に、言葉が降ってくる。
「力を使いすぎだ」
さっきの戦闘のことだろうなと思う間もなく、俺の意識が遠ざかっていく。
背中に感じた腕が温かくて懐かしいなんて思ったのはきっと意識がもうろうとした所為だ。
起きたとき、俺はまたあの部屋にいた。
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また逆戻り。
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07/12/24
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