変化







木々の上を駆け抜けても、森は広く果てがないように思える。
昼間から木の上を飛んでいるというのはどうにも目立つのだけれど、下に降りて歩く気にはなれなかった。
こっちのほうが早いと言うこともあるが、風邪が駆け抜ける感じがとても気持ちが良い。
これも吸血鬼になった副産物かと思うと何とも言えない気分になるけれど、逃げるのがまず一番だった。
後ろにはまだ小さくなったとはいえ、紅麗の城が見えるのだ。

けれど。

急に殺気を感じて、進行方向を横に変える。
俺が着地するはずだった木のあたりは、大きな音を立てて抉れた。

追っ手か、と思い殺気のする方向を見ると。
三人の、真っ黒い羽が生え空中に羽化でいる異様な姿の男達がいた。

「…誰だ」
「俺は嘴丸!」
「羽丸っ」
「爪丸だ!三人そろって三羽烏だっ」
「三バカ?」
「三羽、烏だっ!!」

烏を強調するあたり、烏が化けたのかなにかだろうと思う。
しかし、髪が逆立っていたり、包帯だらけだったり、モヒカンヘッドだったり。
チンピラの塊にしか見えない。頭悪そうなネーミングだし。
溜め息を吐いて、そいつらに向き合った。

「あーなに?なんの用?俺急いでんだけど」
「おまえ、純血のヴァンパイアだな?」
「純血?純粋な、じゃなくて?」
「言い方なんてどうでもいいんだよ。俺達が強くなるために、お前の命を貰う」
「は?」

言うが早いか、モヒカンが突っ込んできた。
スピードは遅すぎにも関わらず、避けたはずの腕に切り傷ができる。
さすがに、見た目はチンピラでも魔物だけある。

「いって!」
「避けるな!」
「無茶言うなよ!!」

めんどくせーなーあ。まだ大丈夫だと思うけど、一々つき合っていられないし。
さっさと置いて逃げるのもいいけれど、ふと自分の炎の強さを試したくなった。
狙いを定めて、腕を三バカに向ける。
逃げられる前に、力を解放する。

「崩!!」

拳程の火の玉が、無数に三バカに向かって飛んでいく。
それは予想していた数より、数倍にもなっていた。
感覚が、以前と違う。

無数の火の玉に、三バカも避けきれなかったらしく頭だったり服だったり羽だったり、それぞれを負傷していた。

「あちちちちっ」
「卑怯だぞっ飛び道具なんて!」
「いや、いきなり襲いかかってきたのお前らだろ。もーいいだろ?俺は行くからな」
「逃がすか!」
「鬼の爪!!」

包帯の男が俺に向かって飛んでくる。
どうやら鋭い爪の技のようなので、逃げるのもめんどくさくなって。

「円っ」

火の玉で作った面の結界で防ぐと、その爪も折れる。
どうやら円の結界の強度が増しているようだった。
掌を握ったり開いたりして、感触を確かめる。
思った以上に、炎が出しやすいしこれは楽しい。

「焔群っ」

掌から炎の鞭を作り上げ、飛びかかってきた爪の男に巻き付け、勢いよく二人の元へ投げ返す。
けれど、流石に鳥なだけあって他の二人はすぐに体制を取り直した。
爪男は焔群で焼けた翼が熱いのか飛び回っている。

「お前、なんなんだよっ。ヴァンパイアがそんな技使えるなんてっ」
「どーでもいいだろ。まだやる気かよ」
「やる気だっ」

仕方がないな、掛かってきたあっちが悪い。
そう思うことにして、最大限のパワーも試したいし、腕を掲げる。
危険を察したらしい三バカは一斉に飛び散り、こちらへ掛かってくる。
けれど、それらが俺に辿り着くよりもずっと早く俺は崩の名前を口にした。

俺の掌から先程よりも多くの火球が、三バカに向かっていき、焼き尽くす。
はず、だった。

 

 

 


けれど、炎は何かの壁にぶつかったように、消失する。
何が起こったのかわからず、俺は三バカを見るが三バカもそうだったらしくぽかんとしていた。
そんな俺達の頭上から、数える程しか聞いたことがない。
けれど、忘れることのできない声が響く。

「…ここで争うのは許さない」
「く、紅麗様!」

そう、なぜかわからないが、紅麗が空中に浮いていたのだ。
俺達を見据える冷たい目と、追いつかれた恐怖とで俺はただ紅麗を見ることしかできなかった。












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やっと兄様登場です。
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07/11/18







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