さあ思い切り飛んでみよう


[今月の注目!墨村正守君へのインタビュー]

--今年の新入生で一番の注目株、墨村君へインタビューをしました。
  よろしくお願いします。
墨村「どうも。」
--早速ですが自己紹介を。
墨村「…(しばし沈黙)墨村正守、十三歳。」
--え、それだけ?
墨村「他にないし。」
--あるでしょ、趣味とか好きなものとか、あだ名とか。
墨村「…趣味は多分読書。好きなものは特になし。あだ名は…まっさん。」
--え。まっさんって、それ誰が呼んでるの?
墨村「隣の家の人。」
--へーオヤジ臭っ(笑)でも、似合ってるかもね。俺も呼んでいい?
墨村「駄目。」
--はは、まあそうだよね。じゃあ、家族構成とペットとかいたら。
墨村「両親と祖父、弟が二人。ペットは犬。」
--ペットの犬種と名前とか。
墨村「犬種は知らない…名前は斑尾。まっ白だけど。」
--なんでまっ白なのに斑?
墨村「さあ、名前を付けた人もう亡くなってるから。」
--そうですかー。じゃあ、本題に入りましょう。文武両道を地で行く墨村君は彼女いますか?
墨村「別に文武両道なわけじゃ…てかそれ、本題?」
--うん、女の子が気になってるだろうし。
墨村「いないよ、この歳でいるのおかしいでしょ。」
--そうかなー、んじゃあ好きな子は?
墨村「いない。」
--じゃあ、好きなアイドルとか。
墨村「テレビ見ないから知らない。」
--え、普段何してるの。趣味とか、勉強とか?
墨村「弟達の世話と…上の弟と鍛錬とか。弟が寝てる時に勉強とか読書。」
--鍛錬!そういえば道場みたな建物あったけど?
墨村「あー…うん。祖父が先生みたいな感じで…。」
--お祖父さんが先生かぁ。柔道とか空手とか?それで帰宅部なんだ?
墨村「あー…いや、うん。まぁ、そんな感じ。」
--大会とかは?門下生とか。
墨村「そういうのないから。家族でやってるだけ。」
--そうなんだ。じゃあ、跡継ぎだね。
墨村「いや、上の弟かな。本人に自覚ないんだけどね」
--なんで?
墨村「そーゆー決まりで…昔からの」
--ふーん、じゃあ墨村君は家を出ると。
墨村「いずれね」
--あ、弟君何歳?
墨村「六歳と一歳。」
--世話、大変?
墨村「そりゃあ。」
--そうだよねー。人見知りしそうだよね(←現在墨村君の家でインタビュー中。弟君達とはと面識済み)。
墨村「人見知りっていうか…うん、泣き虫で困るね、上の弟は。」
--(笑)でも、かわいいでしょ。
墨村「そうだなぁ。うん、歳が離れてるから余計に。上の弟はいつもくっついてくるし。」
--いいね、仲良し兄弟で。じゃあそろそろ本題に戻って。最近嬉しかったことは?
墨村「(沈黙)下の弟が生まれたこと。」
--戻ってないし、一年も前のことじゃん。まあいいや、じゃあ最近嫌だったこと、辛かったことは?
墨村「上の弟が反抗期になりつつあること。」
--…キミ、ホント弟中心だね。
墨村「そう?」
--うん、そう。あ、さっきお父さんがいたけど、お母さんが働いてるの?
墨村「共働き。父さんは小説家で母さんはめったに帰ってこない。だから弟の世話をするのは俺。」
--へえ!大変だね。まだ下の子ちっさいのに。
墨村「うん、でも偶に帰ってくるから。」
--じゃあ次。好きな食べ物と嫌いな食べ物は?
墨村「甘味類が好き。嫌いなものは特にないかな。」
--甘いもの好き?
墨村「好き。多分血筋。」
--へえ、どっちの?
墨村「どっちっていうか、お祖父さん。」
--そうなんだ。じゃあ洋菓子より和菓子派?家も純日本風だもんね。出して貰った茶菓子も和菓子だし。
墨村「どっちでもいいけど、洋菓子はあまり食べないからよくわからない。」
--そかー、女子の皆さん、墨村君にはチョコレートじゃなく大福をあげましょう。
墨村「何ソレ(笑)」
--いや、バレンタインとか。貰うでしょ。去年は?
墨村「ああ、そういえば。何個か貰ったかも。ん?八個?ありがと(←弟君が発言)」
--何で弟君が覚えてるの?。
墨村「チョコレートが好きなんだよ。俺が貰いだしてから楽しみら
しくて」
--へぇ。弟君は洋菓子好きかぁ。今年はそれ以上貰えるから楽しみにしてなよ。
墨村「俺そんなにモテないよ(苦笑)」
--うわーナシだ。梨の礫だ。
墨村「いや、意味わかんないし。使い方間違ってるし。」
--いいからいいから。じゃあ、賭けようか。キミが今年十個以上チョコレート若しくは大福を貰ったら、もう一回インタビューに出て貰う。
墨村「貰わなかったら?」
--あー何して欲しい?
墨村「別になにも。」
--んじゃ、何もナシで。
墨村「それは嫌だなぁ。じゃあ今後いつでも俺の頼みをきいてくれるとか。」
--マジですか。
墨村「マジです。」
--まあいいや、勝つ自信はあるので。次回が楽しみですね。
 ということで、今回はこれでお終いです。お疲れ様でした。
     インタビュアー:梶翔太














「何コレ」
「見たまんま。ほら、それ良守だよ」
「わかるし。つか、何コレ。『注目株』?『弟中心』?色々ツッコミてぇ」

休暇中じゃないんだけど、用事があって自宅に戻り押し入れを整理していた所、いいものが出てきた。
すっかり色あせた、校内新聞のある号。
本来は配られるものじゃないのだけれど、インタビューを受けたから特別に貰ったものを取っておいたものだ。

見つけた途端懐かしいやら面白いやらで、寝ていた良守を起こして見せてみた。
案の定嫌な顔をした。
そりゃあそうだろう。
泣きながら俺に抱きついて、宥められている図が校内に晒されたのだと思うと、眉間に皺が寄るのも当然。
でも、別に良守の知り合いに見られた訳じゃないのにな。

「突っ込むもなにも、それ事実だからね」
「はぁ?」
「俺モテモテだったんだよ。老若男女問わず」
「単に外面がいいだけだろ」
「世渡り上手って言ってよ」

新聞の記事を目で追っている良守は俺の方を見やしない。
それだけ一生懸命に見るとは思ってなかったので、少し驚く。

「隣の家の人って、白尾だろ。人じゃないじゃん」
「いや、だって犬が、それも生きてないのが喋るって言えないだろ」
「斑尾がペットって、斑尾怒るぜ。それにあいつ山犬だろ」
「おまえが言わなきゃわかんないよ。狼を飼ってますって言えないしねーまぁそこらへんノリっていうか適当っていうか」
「大体、おまえ弟、弟言い過ぎ。誰の所為で反抗期を迎えたと思ってんだ」
「そこは真面目に素だぞ。それに俺がおまえに厳しいのはおまえに正統継承者である自覚をだなぁ」
「あーもーいいよ、説教は。それより、この次のインタビューは?」
「え?ないよ?」
「なんで?兄貴中学に上がってから貰うチョコ、増えてなかった?」
「いや、その年はギリギリ九個に調節したから」

は?と首を傾げてる良守に、よく覚えてるなぁと言えば拗ねられる。
なんだかかわいかったので、のし掛かるように正面から押し倒した。

「重いーっ」
「インタビューは受けたくなかったけどおまえが毎年チョコ、楽しみにしてたからさ。九個以上になったら滅した」
「うわ、サイテー…」
「そう言うなよ。断ってたらカバンやら靴箱やら…ホント女の執念は恐いよね。弟君と一緒に、とか言われたら断りにくいしさー迷惑だよ全く。大体全く知らない人間の手作りなんてなんか入ってそうで食べれないよ。わかってないよね。あ、だから持って帰ったのは全部既製品だけだから安心しろ」

一気に喋ると、良守は凄くウザそうな顔をした。
なに、と訊くと同じくウザそうな声で。

「人でなし」

と言うので、酷いなぁと脇腹をくすぐってやる。
ホントわかってないな。まあ、分かって貰っても困るけどな。
どうして俺が仔犬を拾う許可を出して父さんとお祖父さんと新聞部に掛け合って、その結果インタビューを受けて、バレンタインのチョコが増えてしまったか。
それは全部良守のため。
その当時の俺は、あまりにも無意識にそれをやっていたので、今思い返すと呆れる。

「ちょ、テメッ、やめろーーーっ」
「おまえの兄ちゃんは人でなし?」
「ゴメ、謝るからっもう言わねぇっ」
「よし」

ぜえぜえ、と肩で息をつく良守に、ああ昼間じゃなかったら襲うのにと思うくらいの色気を感じ、そんな自分に苦笑する。
育っても俺の心を占めるのだな、と。
くすぐるのをやめて、もう一度良守を抱きしめ直すと自分たちの写真の近くにあった仔犬の写真が目に入る。
この犬のことを良守は覚えているのだろうか、と思ったので訊いてみると大して考えることなく良守は、覚えてると言った。

「ホントに?」
「アレだろ、俺が拾ってきて…」
「そうそう。飼い主が決まって大泣きした」
「なんでお前はそういう…」

こういうこと言うかって?
そりゃ、嫌な顔をするお前が見たいから。
と言ったら強制退去になるのは分かってるので黙っておく。

「あの犬元気かなぁ」
「さあねぇ。貰ってくれた人、知り合いじゃないから」
「そうなの?」
「新聞見た人だから」

あの新聞が学校に掲示されて暫く経った頃、梶が候補者だと連れてきた。
その人がウチに来たのは仔犬を連れ帰って一週間くらい経った頃で。
徐々に懐いてきていた犬を手放したくないと良守はだだを捏ねてしまった。
良守はちゃんと約束を守り、修行に励んでいただけあって祖父も父もそのまま飼い主が見つからなければ飼ってもいいかと思っていたのだ。
それでも飼いたいと思う人がいるのなら、譲った方がいい。
生き物を飼うと言うことは大変だし、夜中に出入りのある家だから犬が夜中に吠えることがあるかもしれない。
それに名乗りを上げてくれた人に断るわけにはいかない。
仔犬がいなくなった夜、良守は久しぶりに俺の布団に潜り込んできた。
正統継承者になる翌年に向けて一人前になる為添い寝は祖父から禁じられていたので、それは久しぶりで、俺も少し嬉しくなってしまい内緒だと言って一緒に眠った。

「この頃からお前はホント、かわいいんだかかわいくないんだか、で」
「なんだよ」
「でもやっぱりかわいくてさ」
「……んだよ」

昔より大きくなった良守は、それでもまだ俺の腕の中にいてくれる。
それがどんなに俺にとって大事なことか、気付くのが少し遅かった気がするけれど、気付いたのだから二度と離せない。
何も言わずただ良守を抱きしめていると、沈黙に耐えかねたのかどうかわからないが良守が、なあと俺の袖を引っぱった。

「ん?」
「この頃から、家、出ようって思ってたのか?」
「そりゃね、いずれ出て行くだろうとは思ってたよ。」

良守は眉を顰めて黙り込んでしまった。
そんなに俺が出て行ったことを気にしていたのだろうか。
そう言えば良守の俺への反抗が無視や無反応に変わったのは俺が出て行ってからかもしれない。

「俺が出て行くって思っていたのは俺が跡継ぎじゃないからだぞ?」
「…俺のせいじゃん」
「おまえは…全く」

溜め息を吐くと良守の眉間の皺が一層寄った。
確かに出て行った理由を言ってないのは俺だし、そもそも理由なんて複雑すぎて説明できない。
けれど、良守がそこまで背負う義務など欠片もない。
それなのに、こいつはどうしてこうなのだろう。
全てが自分の所為だと思いこむ。

「だって、お、俺がかわいくなくなったから…」
「は?なに言ってんの?」

真剣な顔つきで言われたこととは思えない内容で、思わず自分の真剣に問い質してしまう。
自分でも口から出た台詞が恥ずかしかったのか、良守は眉を顰めたまま俺から視線を逸らす。
それでも、良守は続けた。

「だから…俺がかわいくなくなったから…出て行ったのかって…」
「なに、それさっきの俺の台詞気にして?」
「だって!」
「あのね、俺はおまえがかわいくなくなったなんて一言も言ってないだろ。それにかわいくないならこうしてない」

こう、と言いながら何度も軽いキスを良守の顔中に落とした。
それでも良守は、だってと繰り返す。
仕方がないので理由の一つを話すことにした。

「あのね、俺が出て行ったのは強くなりたかったから。わかる?」
「…」
「あーもう。なにに、拗ねてんの?」
「拗ねてなんかっ」

過剰に良守が反応したので、ああ拗ねてるだけかともう一つ溜め息を吐いた。
自分でも自覚があるのか、気まずそうに良守はもう一度視線を逸らす。

「兄ちゃんは良守のことだけしか考えてないよ?」
「兄ちゃんとか言うな」
「どうしてそんなに機嫌悪いかなー。そうか兄ちゃんが直ぐに帰るのが嫌なのか?じゃあ泊まっていってあげよう」
「なっだれがそんなことっ…大体できねぇだろ、んなことっ」
「できるよー一泊ぐらい。良守の為なら」
「…自分の為じゃねぇの」
「じゃあ言い直そう。俺とおまえの為なら一泊くらいできる」

最上級のタラシ顔で言うと、良守は顔を赤くさせつつ俺の肩に額をぐいぐい押し付けた。
良守が俺の顔を好きだと気付いてから偶にやるけれど、態とだと未だ気付かない良守はいつもそれに照れてくれてかわいい。
ホントにかわいいと思っているんだ。
良守は自分の方が俺に翻弄されていると思っているだろうけれど、本当は俺の全ては良守で支配されている。
それを悟られるのは悔しいから、そのまま気付かないでいてほしいなと思いながら、俺は良守にキスをした。

-------------------------------------------------------------- 思い切って飛んだのは作者です(平伏)。 頑張って新聞記事風にしてみました。イラストが描けないのが難点ですが楽しかったです。 というわけでこっそりイラスト募集…。こっそり。 レイアウト等崩れて見れない方はこちらからどうぞ。 07/08/13

back