その男は仇だった。
その男がいなければ母は死ななかった。
…俺も産まれなかったけれど。
男はゆっくりと俺に近付いてくる。
それに俺は驚いた。
日が当たる場所を、平気で歩いている。
こいつはヴァンパイアじゃなかったのか。
なぜ、平気なのだろうか。
こいつがヴァンパイアで、日光が平気なら。
今日光が平気な俺も、やっぱり。
「火影、の一族だな」
ゆっくりとそいつが喋る。
そう、俺は火影の一族、だった。
けれど。
「唯のヴァンピールかと思っていたが」
火影の一族はその存在を殆ど知られていない。
人間でありながら、特殊な力を持っているからだ。
それは、炎を操る力と道具に様々な力を与える力。
俺は炎を操る力を持っていた。
その存在を利用されない為、火影はひっそりと暮らしていた。
それなのにこの男は火影を知ってる。
---やっぱり、こいつが仇だ。
俺は手に意識を集中させ、炎を作る。
けれど、それは直ぐになくなった。
「!?」
「まだ覚醒してから時間が経ってない。力など戻っているはずないだろう」
「…っ」
「お前の名は」
「……」
「名乗れ」
睨むよりももっと冷たくて、凍えるような目で命令される。
それでも俺は黙っていると、その男が俺に近付いてきた。
俺の首に手を掛け、力を軽く込める。
「死ぬぞ」
「……っ」
少しずつ力が強くなっていき、堪らず掠れた声で、烈火、とだけ言った。
すると、何もなかったかのように男は手を放す。
そして無表情で俺を見下ろして。
「私は紅麗だ。お前の異母兄にあたる」
そう、言い放った。
その言葉に俺は、混乱する。
兄、こいつが俺の兄。
異母…ということは父親が同じということだ。
俺の母の仇が、この男の父ということだ。
けれど。
事前に調べた限り、この城に住むヴァンパイアはこの男一人。
じゃあ、じゃあ。
「桜火…は」
「死んだ。お前の母の所為で」
紅麗と名乗った、俺の兄と名乗った男の眼光が鋭くなる。
睨まれたところがちり、と焼けたように錯覚する程。
けれど、それよりも。
仇が死んでいたこと、そしてその原因が俺の母にあったということを言われ、俺の混乱は最高に達した。
なんのために、ここに来たのか。
なんのために死んで、ヴァンパイアなどになったのか。
その原因が、もうこの世にいない。
なにをどうしていいのかが、わからなくなる。
けれど、混乱した頭でも一つだけ理解できたことがあった。
多分、この男は。
俺が桜火を憎んだように、俺の母を。
そして、俺を憎んでいる。
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書くのを忘れてた補足です。
ヴァンパイアと人間のハーフをダンピールと言うそうで。
でも、最初に調べた時にヴァンピールとなってたので、そうしています。
響きがコッチの方がいいなぁと思ったので。
正確にはダンピールです。
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07/05/21
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