俺の母は俺を産んで死んだ。
俺を育てたのは、叔父にあたる人で、その人が死ぬ直前までそのことを俺は知らなかった。
母親はいなかったけれど、父と弟がいて、本当の家族だと思ってたけれど、父だと思っていた叔父が死ぬ直前、俺だけを呼んで本当のことを教えてくれた。

俺の母親は、陽炎という。
17年前の満月の日に、行方不明になった。
二ヶ月程経って、ふらりと母は帰ってきた。
そのときはもう既に身重で、けれども相手の名は決して告げなかったため、外の人間と交わったとして隔離され、病弱だった母は俺を産み落として死んだ。
しかし、産まれた俺に炎を操る力がそなわっていたため、頭首になる人間の父親が誰かもわからない、ということでは体裁が悪いと判断した祖父は、母親のことを隠すように叔父に指示をし、更に俺を育てさせた。
だから、俺の母親は、今は死んでいるが、当時既に叔父の妻になっていた薫の母ということでみなに知らされていた。
でも、叔父は密かに母から真実を教えられていた。母は病弱だから死んだわけではないことを。

満月の夜、母はヴァンパイアにさらわれた。
死を覚悟したが、そのヴァンパイアに気に入られ、二ヶ月共に過ごした。
けれど、そのヴァンパイアには既に妻がいて、その妻が怒り狂い母を殺そうとしたから逃がされた。

実父の名は桜火。
その男は、母が妊娠したことを知っていながら会いに来なかった。
人間がヴァンピールを産めば死ぬことを知っていながら、来なかった。
母が、人間でなくなれば。
つまり、ヴァンパイアになれば生き延びられたのに。
母は最期の時まで桜火を待ち続けた。二ヶ月の間で、惚れてしまったのだろうと叔父は言っていた。
しかし、桜火は来なかった。母は、俺を産んで死んだ。
叔父は、桜火を許せないと言って死んでいった。

俺はその話を聞いてすぐ、全てを捨てて里を飛び出した。
弟(本当は従弟にあたるのだが)の薫だけには話していたが、他には誰にも言わずに。
俺の村は閉塞的で、ヴァンパイアの関する情報はなかったからもあるし、里にいれば自由に行動が出来ない。
火影は、頭首のみが炎を操る力を持っている。だから、本来、俺は里に尽くさなければならい人間なのだ。
けれど、俺にはもうそんなことは出来ない。俺を縛る里などいらない。
薫は炎を操る力は持っていないけれど、その子どもが出来ればきっと問題なく力を持ってくるだろう。
薫は渋ったけれど、後のことを全て了承してくれた。

俺が向かった場所は、里とは比べものにならない程大きな街だった。
大きな街には、情報が集まる。
その街で暫く暮らして、ヴァンパイアについて調べていた。
そのとき、自分がヴァンピールという存在であり、死ねばヴァンパイアになることを、そうならない為には心臓を貫いて死体を焼かなければならないということを知った。

それから、ヴァンピールがヴァンパイアハンターになれることを知った。
炎も使えたし、俺は腕試しに軽い賞金首になっているヴァンパイアを殺し歩いた。
ヴァンパイアハンターと勝手に名乗ればいいだけだったし、殆ど簡単に、殺せた。
多分、俺が火影の炎を使えたことがあるのだろう。
火影の炎にはヴァンパイアを殺す能力はないが、ヴァンピールである俺の力が火影の炎に宿り、バンパイアを殺せるのだろうと理解した。
それから、桜火という名前のヴァンパイアを探した。
その結果、結構な賞金首で、ここ十年以上姿を現していないということだけわかった。
賞金首と言うことは、それなりに悪さをしているのかと思ったが、そうではなく単に力が強く誰も倒せたことがない、つまり、ヴァンパイアハンターを尽く返り討ちしていることからついた金額だった。
けれど、ここ十数年はヴァンパイアすら桜火の姿を見ていないらしかった。手がかりは皆無だった。

俺は賞金が掛かっているヴァンパイアを殺すついでに、桜火について聞いて回った。
そして何年もかかって、城の場所だけだけれど知ることが出来た。




何年も、かかったんだ。
全てを捨ててきたんだ。
沢山、ヴァンパイアだって殺してきたんだ。
それも、ただ母親と、叔父の無念を晴らす為。
なのに。
ああ、あんまりだ。


あんまりだ、こんな結末。






















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普通、吸血鬼は妻帯しないみたいですが。
桜火なので、特別って事で。

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07/06/05