人魚姫
京楽が城に滞在させて貰うようになって数日が経った。
相変わらず治らない喉に医者は首を傾げていたが喉のハレに効くという薬を処方して京楽に宛がわれた部屋から出て行いった。
すれ違い様、開いたドアから勝手にコンが入ってくる。
城のものは皆知っているらしく、医者はコンを一撫でしたのでコンの喉が鳴った。
どうしてコンだけで自分の部屋に来たのだろう、と疑問に思い京楽がコンに手を翳すとコンはその手に口にくわえていた何かを落とす。
「?」
ころん、と掌で転がったそれはビンに入った水色の液体。
これは、浦原が何かあった時、人魚に戻って逃げる為に解毒剤として作ったもので、だけれどいつのまにかなくしていたのだ。
といっても、そんなこと思い出すこともない程平和だったし、戻りたいなどと思っていなかったのだけれど。
どうしてコンが持っていたのかと、訊きたくても京楽の声は出ないし、出たとしてもコンは動物だから会話ができない。
肝心のコンは、ビンのことなど気にせずに京楽のベッドへ我が物顔で潜り込んでいた。
京楽は掌に収まる程小さなそのビンを見つめる。
必要はないのだけれど、浦原の心だと思いベッドのサイドテーブルの引き出しにしまった。
自分に与えられたベッドで寝ころぶコンを撫でていると、急に、ドアが開いて泰虎が駆け込んできた。
「かくまってくれ!」
かくまうと言っても、ここは君の城だろうと言いたいけれど真剣な様子に京楽は勢いで頷いた。
ベッドに座るように促すと、泰虎はホッとしたような表情を作り、ドアを閉める。
「すまない、騒がしくして」
ベッドに腰掛け、擦り寄ってきたコンを撫でながら泰虎は申し訳なさそうに、そして途方がくれたように呟いた。
それから暫く沈黙が降りる。
どうしたの、そう言いたくて言えない自分に京楽は歯がゆくなる。
けれど心配げな視線に気付いたのか、泰虎が口を開いた。
「両親に……」
両親、と言われて何度か謁見したことのある王と王妃を思い出す。
王は髪が長く、目が鋭い男で王妃はオレンジ色の短髪にこれまたよろしくない目つきで。
そして二人とも色白で、彼らは泰虎に全く似ていない。
本当に親子だろうかと京楽が思う程に。
そんなことを考えていた京楽は、泰虎の言葉に腰が抜けそうになる程驚くことになった。
「藍染さん、と婚約…しろと言われた、んだ」
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やっと佳境に入りました……っ
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07/11/26
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