人魚姫
婚約、それはつまり。
結婚する相手と言うことで。
あの、藍染が泰虎の結婚相手。
決して泰虎が気を許そうとはしないのに、なぜ王はそれを決定したのか。
俯いている泰虎にはわからなかったのだが、京楽の身体が少し震え始める。
あの男が人外だということを知っているのは恐らく京楽だけなのだろうと。
「どうしてだろう。あの人は、確かに俺を救ってくれたけど…」
救ったのではない、藍染がしたことは泰虎を見つけたことだけ。
泰虎を助けたのは京楽なのに、それも伝えることができない。
伝えることができればその婚約は解消できるだろうかと京楽は思うが、己が人魚だということも伝えなければいけない。
そうすると婚約所か追い出されるだろう。
ならば藍染が人間ではないと言うことを知らせれば。
けれど、藍染はそう簡単には正体を出さないだろう。藍染がどんな魔物かわからない京楽には、正体を暴く手段も分からない。
「あの人は恐い…なんでこの城の人が藍染を受け入れるのかわからない」
藍染に対して心証の良くない泰虎は、どうやら藍染の人間ではない部分に反応しているのではないかと京楽は考える。
外見が似ていないのと同様に彼は、両親が持ち得ない敏感さをもっているようだ。
彼と両親に対しての血の繋がりが少し京楽は気になるが、それは今は関係ない。
もしかしたら藍染は魔力かなにかで城の人々を魅了、若しくは操作する力があるのかもしれない。
泰虎はどうしてだか、それに掛からない潜在的な力があるのだろう。
勿論、泰虎は人間だからただそれだけだろうけれど。
藍染の目的はわからない。人外であるならば城など落とすのは簡単なはずなのに、「婚約」だなんていうややこしい手段を使う藍染の目的は一体何なのか。
ただ分かるのは、今泰虎を守れるのは京楽だけ。
泰虎が目的なのかもしれないし、泰虎の力がなにか意味があるのかも知れない。どっちにしろ、泰虎を傷つけるのは許せない。
京楽は俯いている泰虎の方を引き寄せて抱きしめながら、小瓶をしまった引き出しを見つめた。
「京楽、さん?」
急に抱き寄せられ驚いている泰虎に、僕が守るよ、と声には出せず京楽はそう誓った。
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あと二話くらい…です。
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07/12/30
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